AIに「小説を書いて」と頼めば、小説らしい文章はすぐに出てきます。
でも、それだけではなかなか面白い小説にはなりません。
今回、室町時代から南北朝時代を題材にした「室町上場物語」という小説を作ってみました。
使ったのはClaudeのOpus 5.5です。
実際にやってみて分かったのは、AI小説で大事なのは「AIに全部書かせること」ではないということでした。
むしろ、
人間が企画して、AIに肉付けしてもらう。
この役割分担が一番しっくりきました。
そもそもの始まりは「歴史が頭に入ってこない」だった
私は歴史そのものは好きです。
YouTubeなどで歴史の話を聞くのも好きです。
ところが、本を読んでいると途中から人物が増えてきます。
「この人は誰だったっけ?」
「どっち側の人だったっけ?」
これが続くと、だんだん物語ではなく答え合わせゲームのようになってきます。
特に室町時代や南北朝時代は、後醍醐天皇、楠木正成、新田義貞、足利尊氏など、重要人物が次々に登場します。
そこで考えました。
歴史を現代の会社の物語に置き換えたら、もっと分かりやすいのではないか。
ここから「室町上場物語」が始まりました。
建武の新政をスタートアップに置き換えてみた
歴史を調べていくと、建武の新政が非常に面白く見えてきました。
鎌倉幕府という既存の巨大組織を倒した。
新しい体制を作った。
ところが、実際に戦った武士たちへの評価や報酬がうまくいかない。
組織内部に不満がたまっていく。
やがて中心人物だった足利尊氏まで離れていく。
これを会社に置き換えると、
「急成長したスタートアップが、ガバナンスと人事評価に失敗して崩れていく話」
にも見えます。
ここが今回の小説の核になりました。
つまり、最初からOpus 5.5に、
「室町時代の小説を書いて」
とは頼んでいません。
何を現代に置き換えたら面白いのかを考えたのは人間です。
まず実際の俳優をキャスティングする
次にやったのがキャスティングです。
後醍醐天皇はどんな社長なのか。
楠木正成は会社でいえばどんな人物なのか。
新田義貞は?
足利尊氏は?
歴史上の人物を、そのまま現代人にするのではありません。
それぞれの人物の立場や性格、行動を調べながら、
「この人物が現代の会社にいたら、こういう役回りになるのではないか」
今回はさらに一歩進めて、それぞれの登場人物を「もし映像化するなら誰に演じてもらうか」という視点で、実在の俳優をキャスティングしました。
これが意外と重要でした。俳優を決めると、顔つきだけでなく、声のトーン、話すテンポ、立ち姿、少し笑ったときの雰囲気までイメージしやすくなります。
「40代の冷静な男性」と指定するより、「この俳優がこの役を演じるイメージ」とした方が、私自身も登場人物を具体的に思い浮かべながら物語を考えられました。
次に人間がプロットを書く
キャラクターが決まったら、次は物語の流れを作ります。
ここでもAIに丸投げはしませんでした。
史実をベースに、
誰が会社を立ち上げるのか。
誰が参加するのか。
会社がなぜ成長するのか。
どこから歯車が狂い始めるのか。
誰と誰が対立するのか。
誰が会社を去るのか。
こうした大きな流れを人間側で決めました。
言ってみれば、私が映画監督兼脚本家です。
そしてOpus 5.5には、その脚本を渡して小説として演じてもらいます。
Opus 5.5には「肉付け」をしてもらう
ここからAIの出番です。
人間が作ったキャスティングとプロットをOpus 5.5に渡して、小説として文章化してもらいました。
ここはAIが非常に強いところです。
例えばプロットに、
「二人の考え方の違いが表面化する」
としか書いていなくても、AIはそこに会話を作れます。
会議室の空気を描写できます。
登場人物の表情を入れられます。
沈黙を入れられます。
主人公が言葉にしなかった感情まで描けます。
人間が骨組みを作り、AIが筋肉や皮膚を付けていく感じです。
これなら数万字規模の小説でも、一から全部自分で文章を書くより圧倒的に速く作れます。
ただし、AIは説明したがる
今回かなり感じたのがこれです。
AIは親切です。
親切なので、説明してくれます。
そして、小説ではその親切さが邪魔になることがあります。
読者がすでに分かっていることまで説明する。
登場人物の気持ちを全部言葉にする。
物語から読み取れる意味まで解説する。
これが増えると、小説というより「よくできた解説文」になってしまいます。
そこで完成後に読み返して、
「これは言わなくても分かる」
という部分を削っていきました。
AIに書かせた文章を、そのまま完成品だと思わないことが重要です。
AIはキャラクターをきれいに描きすぎる
もう一つ気になったのが、登場人物を少し整えすぎることでした。
例えば楠木正成に相当する人物が、あまりにも正しく、あまりにも優秀だと面白くありません。
人間には弱点があります。
判断を間違えることもある。
嫉妬もする。
意地も張る。
分かっていても言えないこともある。
そこで今回の改稿では、楠木側にも弱点を追加しました。
また、後半で説明が長くなった部分は圧縮し、新田義貞と足利尊氏に相当する人物同士の対話も増やしました。
AIが作った整った世界を、人間が少し崩す。
これもAI小説では大切な作業だと思います。
最後はAIに触らせすぎない
面白かったのは、完成に近づくほどAIに任せる部分が減っていったことです。
最初はAIにどんどん書いてもらう。
中盤では修正案を出してもらう。
ところが最後は、自分で文章を直した方が早くなりました。
「この一文はいらない」
「ここは一行空けたい」
「この会話はもう少し短い方がいい」
こういう微妙な調整までAIに指示していると、逆に時間がかかります。
しかも一カ所を直したことで、気に入っていた別の部分まで変わることがあります。
だから最終工程では、AIから文章を取り上げて自分で編集しました。
これはWeb制作にも似ています。
最初のたたき台をAIに一気に作らせる。
大きな修正もAIにやらせる。
最後の数パーセントは人間が触る。
この方が速い。
AI小説の制作工程をまとめると

今回の「室町上場物語」は、おおむね次の流れで作りました。
- 自分が面白いと思った歴史上の構造を見つける
- その構造を現代の会社に置き換える
- 歴史上の人物を現代の登場人物として実際の俳優をキャスティングする
- 人間が物語全体のプロットを作る
- プロットをOpus 5.5に渡して小説として肉付けしてもらう
- 通して読んで、説明過多やテンポの悪い部分を見つける
- キャラクターがきれいすぎる場合は弱点や矛盾を加える
- 最終的な細かい編集は自分で行う
こうして見ると、AIが担当しているのは主に5番です。
もちろん途中の壁打ちにもAIは使えます。
しかし「何を書くのか」「何が面白いのか」を決めているのは人間です。
「AIが書いた小説」なのか?
AI小説を作ると、
「それってAIが書いたんでしょう?」
という話になりがちです。
でも今回やってみて、少し見方が変わりました。
例えば映画監督は、自分で全部のセリフをしゃべりません。
自分でカメラを回すとは限りません。
照明も美術も音楽も、それぞれ専門家が担当します。
それでも作品には監督の意図があります。
AI小説も、それに近づいていくのではないでしょうか。
AIに全部考えさせるのではなく、
人間が何を作りたいのかを決め、AIという非常に優秀な制作スタッフを使う。
そう考えると、AI小説の作り方がかなり変わります。
文章力より「企画力」が重要になる
今回、一番面白いと感じたのはここです。
AIによって文章を書くコストが大きく下がると、逆に重要になるのは文章を書く前の部分です。
「建武の新政をスタートアップにしたら面白いんじゃないか?」
この発想をAIが勝手に持ってきたわけではありません。
歴史を見て、自分なりに引っかかったところから生まれました。
誰をどんな役にするのか。
どこを史実として残すのか。
どこを大胆に現代へ置き換えるのか。
どこで読者に気づかせるのか。
こうした判断に、その人らしさが出ます。
AI時代に文章を書くというのは、キーボードを速く打つことではなくなっていくのかもしれません。
何を書くかを考えること。
何をAIに任せるかを決めること。
そして、AIが出してきたものに「これは違う」と言えること。
今回「室町上場物語」を作ってみて、この3つがAIで小説を書くときの一番重要な能力なのではないかと思いました。
AIに小説を書かせる。
そう聞くと、ボタン一つで作品が完成するように思えます。
実際には逆でした。
AIが文章を書いてくれるようになったからこそ、人間は文章を書く作業から少し離れて、
「自分は何を面白いと思っているのか」
を考えることに時間を使えるようになりました。
私はそこに、AIを使って物語を作る面白さがあると思っています。

