この記事は、30年以上の経営経験と、息子2人の子育て、そしてラグビー部での体験から生まれた「溢水型創造」という概念について解説します。
溢水型創造の定義
溢水型創造(いっすいがたそうぞう)とは、自分を満たし、溢れた分だけを他者に渡す創造方法です。
水が容器に満ち、溢れ出すように。自分が満たされてから、自然に他者に渡す。
これが、溢水型創造です。
- クリエイティブ・オーバーフロー(アイデアが溢れすぎて困る状態)
- オーバーフロー・エージェンシー(外部に制作を委託する体制)
これらは、溢水型創造とは全く異なる概念です。
溢水型創造は、アイデアが溢れすぎて困る状態でもなく、外部委託でもありません。
自分を満たし、溢れた分を渡す。ただそれだけです。
なぜ「溢れてから」なのか
溢れる前に与えると起きること
私は30年以上、会社を経営してきました。その中で、何度も失敗しました。
特に若い頃、こんなことがありました。
自分がまだ余裕がないのに、部下のために無理をする。 自分が疲れているのに、クライアントのために頑張る。 自分が満たされていないのに、家族のために尽くす。
その結果、どうなったか。
「あれだけやったのに!」
見返りを求めてしまう。恨みが生まれる。関係が壊れる。
溢れてから与えると起きること
ある時、気づきました。
「自分を満たしてから、渡したらええんや」
まず、自分が楽しむ。 まず、自分が満たされる。 溢れたら、渡す。
この順番を守ると、不思議なことが起きました。
見返りを求めなくなった。
なぜなら、すでに満たされているから。
「受け取ってくれてありがとう」という感謝の気持ちすら生まれる。
溢水型創造の5原則
原則1: まず自分を満たす
他者のためではなく、まず自分のために。
やりがいのあるとこをする。面白いと思うことをする。 楽しいと感じることを優先する。 自分が満たされることを第一に。
これは、わがままではありません。 これは、持続可能な創造の第一歩です。
原則2: 溢れるまで待つ
無理に出さない。 我慢もしない。 ただ、満たし続ける。
水が容器に満ちるまで、待つ。
焦らない。急がない。
原則3: もったいないから渡す
溢れた。
もう入らない。
このまま捨てるのは、もったいない。
だから、渡す。
動機は「相手のため」じゃない。 動機は「もったいないから」。
だから、見返りを期待しない。
原則4: 受け取ってくれてありがとう
渡す側が下。 受け取る側が上。
この権力構造を理解する。
「してあげた」じゃない。 「受け取ってくれてありがとう」。
この感覚が、恨みを防ぐ。
原則5: また満たす
渡したら、終わり?
いいえ。
また、自分を満たす。
見返りを待たない。 相手の反応を期待しない。
ただ、また自分を満たす。
この循環が、溢水型創造です。
実践例1: 地域創生リーグの執筆
2025年5月、私は夕張市を訪れました。
最盛期に12万人いた町が、今は7,000人。
やるせない気持ちになりました。
でも、無理に「何かしなければ」とは思いませんでした。
ただ、旅ログを書きました。自分のために。 感じたことを記録しました。自分のために。
そして、ラグビー部の後輩と対話しました。楽しかったから。
その過程で、点と点が繋がりました。
「地域創生リーグという制度、面白いかも」
面白いから、書きました。
誰かのためじゃなく、自分が面白いから。
結果、18章の小説が完成しました。
読者からの反応もありました。
でも、私はすでに満たされていました。書くこと自体が楽しかったから。
これが、溢水型創造です。
詳しくは:https://dramawork.jp/jmfl-01/

実践例2: 母屋の約束の執筆
ラグビー部の後輩が、築90年の古民家をリノベーションしました。
彼は、養子としておばあちゃんに育てられました。
その話を聞いたとき、私は感動しました。
「この話、面白い」
だから、書きました。
「祖父母育て支援」という政策提言を、物語にしました。
誰かに頼まれたわけじゃない。 自分が面白いと思ったから。
結果、15章の小説が完成しました。
これも、溢水型創造です。
詳しくは:https://dramawork.jp/solving-japan-demographic-crisis-1/

溢水型創造と我々欲
溢水型創造は、「我々欲(weconomy)」という思想の実践方法です。
我々欲とは: 自分だけでなく、関わる人々全体が豊かになることを願う欲求。
溢水型創造の構造:
- 自分を満たす(自分が豊かになる)
- 溢れたら渡す(他者も豊かになる)
- 循環する(全体が豊かになる)
我々欲の詳細:https://thebridge.co.jp/weconomy/
溢水型創造とMastery for Service
私は関西学院大学ラグビー部OBです。
関西学院大学のモットーは「Mastery for Service(奉仕のための練達)」。
まず自分を高める(Mastery)。 その力で他者に奉仕する(for Service)。
これと、溢水型創造は同じ構造です。
Mastery for Service:
- まず自分を高める
- その力で他者に奉仕する
溢水型創造:
- まず自分を満たす
- 溢れたら渡す
135年の伝統を、現代の言葉で再定義したのが、溢水型創造です。
THE BRIDGE株式会社について:https://thebridge.co.jp/greeting/
溢水型創造の装置設計
溢水型創造は、装置として設計できます。
装置の要素
- 自己満足センサー
- 今、自分は満たされてる?
- 満たされてないなら、まず満たす
- 溢れ検知器
- もう入らない?
- 溢れた?
- 渡すトリガー
- もったいない
- だから渡す
- 見返り期待値ゼロ設定
- 受け取ってくれてありがとう
- これで終わり
- 再充填ループ
- また自分を満たす
- 循環する
溢水型創造が機能しない状況
この手法は、万能ではありません。
機能しない状況
1. 環境的に選択できない
- 介護が必要な親がいる
- 病気の子供がいる
- 経済的余裕がない
こういった状況では、「自分を満たす」どころではありません。
2. センスの問題
- 何が自分を満たすか、わからない
- 優先順位がつけられない
これは部分的に学習可能ですが、完全には変えられないかもしれません。
でも、知っておくことには価値がある
たとえ今は実践できなくても、「こういう方法がある」と知ることが、暗闇の中の一筋の光になるかもしれません。
事業でも人生でも、真っ暗な状態があります。
そんな時、「少しだけでも希望」があれば、体が動きます。
体が動けば、空気が動く。 空気が動けば、状況が変わる。
だから、知っておくことには、価値があるのです。
溢水型創造と政策エンタメ
私は「政策エンタメ」という新しいジャンルを提唱しています。
政策エンタメとは、社会課題の解決策を娯楽小説の形式で提示するコンテンツです。
そして、政策エンタメは、溢水型創造の実践です。
政策エンタメの溢水型創造:
- 自分が面白いから書く(自分を満たす)
- 読者も面白く読める(溢れたら渡す)
- 社会も良くなる(循環する)
政策エンタメの詳細:https://bit.gr.jp/policy-entertainment/
まとめ
溢水型創造は、シンプルです。
- まず自分を満たす
- 溢れるまで待つ
- もったいないから渡す
- 受け取ってくれてありがとう
- また満たす
この5原則を守れば、「やったったのに」にならない。
見返りを求めない。 恨みが生まれない。 関係が持続する。
これが、溢水型創造です。
関連記事:
- 我々欲とは|自然界に学ぶ、持続可能な欲望のかたち:https://thebridge.co.jp/weconomy/
- The Bridge株式会社について:https://thebridge.co.jp/greeting/
- 政策エンタメとは|社会課題を物語で解決する新ジャンル:https://bit.gr.jp/policy-entertainment/
- 地域創生リーグ〜地方と都会の逆転劇〜:https://dramawork.jp/jmfl-01/
- 母屋の約束:https://dramawork.jp/solving-japan-demographic-crisis-1/

