――3ヶ月で契約を終了した理由
「条件としては、悪くないんですよね」
業務委託契約の継続を打診されたとき、私は正直そう思っていた。
報酬額、契約期間、業務範囲。
どれを取っても合格点だった。
論理的に考えれば、続けない理由はない。
それでも、私は3ヶ月で契約を終了した。
知人からは
「もったいない」
「感情的すぎる」
と言われた。
確かに、数字だけを見ればそうかもしれない。
だが、私は感情で「逃げた」わけではない。
感情で「決めた」のだ。
この違いを、私は30年かけて学んできた。
「感情的になるな」という呪文の正体
ビジネスの現場では、決まり文句のように言われる。
「感情的になるな」
「冷静に判断しろ」
「数字を見ろ」
私自身、銀行員時代から起業後の23年間、
この言葉を何度も使い、何度も聞いてきた。
だが最近、はっきりと気づいた。
感情を排除しても、正しい判断はできない。
むしろ、感情を無視した判断ほど、
後から静かに心を摩耗させていく。
数字は合っている。
条件も悪くない。
それでも、文化が合わない。
自律性が削られる。
論理的には正しいのに、どこかおかしい。
この「何か」を無視し続けた結果、
私は過去に何度も消耗してきた。
旅行先のスーパーで見つけた「フィルター」
転機は、意外なほど日常に近い場面だった。
旅行先で立ち寄った、地方のスーパー。
牛乳売り場の前で、私はいつも少し迷う。
「この牛乳、ちょっと高いな」
「でも地元の牧場のやつやし」
「旅行先やし、こういうのもええか」
「いや、毎日飲むものでもあるしな」
この堂々巡りを断ち切るため、
私はあるルールを決めた。
市場価格は1本150円。
300円までなら、悩んでいい。
300円以下なら、
地元産でも、少し高くても、
「好き」や「応援したい」という感情で選んでいい。
300円を超えたら、基本は買わない。
悩まない。
感情を動員しない。
たったこれだけで、判断は驚くほど楽になった。
重要なのは、
このルールが感情を否定していないことだ。
感情を使う前に、
使っていい範囲を決めただけ。
私はこれを
Filter(濾過)
と呼ぶことにした。
Feel After Filter ――感情は、最後に使う
コンサル契約の話に戻る。
契約継続を検討する際、
私は次のフィルターを通した。
- 報酬は適正か(市場価格との比較)
- 業務範囲は明確か(契約書の精査)
- 将来性はあるか(事業計画の確認)
これらはすべて、論理で判断できる。
そして、すべて「合格」だった。
だが、その先に残った問いがある。
- この文化の中で、私は3年やっていけるか
- 自律性を失ったまま、価値を出し続けられるか
- 説明できない違和感を、無視し続けられるか
ここで初めて、
私は感情に判断を委ねた。
答えは「No」だった。
これが、Feel After Filter(FAF)だ。
感情で決める。
ただし、フィルターを通過した後に。
「感謝」が消える瞬間
私には、もう一つの判断基準がある。
感謝は、続いているか。
仕事を頼まれる。
応える。
最初は、きちんと感謝される。
だが、いつの間にかそれが「当たり前」になる。
その瞬間、私は距離を取る。
怒らない。
責めない。
説教もしない。
ただ、静かにフェードアウトする。
冷たいと思われるかもしれない。
だが私にとっては、
自分の時間と尊厳を守るための判断だ。
ここでもFAFは同じ構造をしている。
- 感謝の頻度は減っていないか(観察)
- 負担は増えていないか(事実確認)
- それでも続けたいか(感情)
3番目だけが感情だ。
だが、1と2があるからこそ、
3に迷いがなくなる。
FAFが使えない場面
この方法は万能ではない。
使えない場面もある。
- 緊急時:フィルターをかける時間がない
- 恋愛や芸術:感情が先にあるべき領域
- 他人の人生:そもそも判断すべきでない
特に恋愛では逆効果だ。
条件を並べた瞬間、恋は死ぬ。
恋愛はFeel Firstでいい。
いや、そうでなければならない。
だが、ビジネスは違う。
ビジネスで一目惚れすると、
後で必ず痛い目に遭う。
「水があふれてから、分ける」
私には「あふれ型創造」という考え方がある。
まず、自分のコップを満たす。
あふれた分だけを、人に分ける。
仕事も同じだ。
自分が消耗してまで尽くすのは、
献身ではなく、共依存だ。
FAFは、
この「あふれ型」を守るための装置でもある。
フィルターをかけることで、
自分のコップに穴を開けない判断ができる。
この記事自体が、FAFだ
実はこの記事も、FAFから生まれている。
AIとの雑談の中で、
「FAF」という言葉が浮かんだとき、
私の感情が動いた。
「これはいい」と思った。
だが、すぐに言語化し、
構造を確認し、
他者に投げてみた。
それでも違和感がなかった。
だから、書いた。
これ自体がFAFだ。
感情を信じる。
だが、信じる前に一度、濾す。
まとめ:感情は、武器になる
30年前の私は、
感情を排除することが正しいと思っていた。
今は違う。
感情は、最高の判断材料だ。
ただし、使うタイミングを間違えてはいけない。
フィルターを通す。
その向こう側に残った感情だけを、
人生の舵取りに使う。
これが、Feel After Filter。
私は今日も、
静かにフィルターを通す。
【FAF実践ガイド】
- 論理で判断できる条件を洗い出す(数字・契約・リスク)
- それでも残る「何か」に気づく(違和感・疲労感・期待)
- その「何か」を感情として認める
- 感情に基づいて、決める
感情で逃げるな。
感情で、決めろ。

