発芽カリキュラム(教科の壁を越える日本型STEAM)を提唱していると、まず聞かれるのが「どうやって評価するんですか?」という質問だ。
正直に答えよう。理想はルーブリック評価だが、現実的にはかなり厳しい。
今日はその理由と、それでもルーブリック評価に取り組む価値について書いてみたい。
そもそもルーブリックって何?
まず基本から。ルーブリックとは、学習の到達度を段階的に示した評価基準表のことだ。
従来の評価との違い:
- 従来:「テスト80点」「◯◯ができていない」
- ルーブリック:「この観点でこのレベルに達している」
例えば、発芽カリキュラムの「お米」テーマでのルーブリック評価表はこんな感じ:
評価項目 | 優秀(4) | 良好(3) | 普通(2) | 要改善(1) |
---|---|---|---|---|
課題設定力 | 独創的で社会的意義のある問いを立てられる | 適切で探究可能な問いを立てられる | 基本的な問いを立てられる | 問いを立てるのに支援が必要 |
情報収集・分析 | 多角的な情報を収集し批判的に分析できる | 必要な情報を収集し整理できる | 基本的な情報収集ができる | 情報収集に支援が必要 |
教科統合理解 | 各教科の知識を有機的に関連付けられる | 教科間のつながりを理解している | 一部の教科間つながりを理解 | 個別教科の理解にとどまる |
表現・発表 | 説得力があり創意工夫された発表ができる | 分かりやすく論理的な発表ができる | 基本的な発表ができる | 発表に支援が必要 |
見ただけで「うわぁ…」と思った人、正直だと思う。私も最初はそうだった。
ルーブリック作成の現実的な困難
1. 作成時間が半端ない
一つのテーマについて、しっかりしたルーブリックを作ろうとすると、軽く10時間は必要だ。
なぜこんなに時間がかかるのか:
- 各評価項目の段階設定に悩む(3と4の違いって何?)
- 子どもの発達段階との整合性チェック
- 他の教師との意見調整
- 実際の授業での検証と修正
通常業務をこなしながら、これだけの時間を確保するのは正直きつい。
2. 評価の主観性という壁
「創意工夫された発表」って、具体的にどんな発表?教師Aと教師Bで基準が違ったら、子どもたちが混乱する。
実際に起こる問題:
- 同じ作品でも教師によって評価が分かれる
- 「優秀」の基準が曖昧で、子どもに説明できない
- 保護者から「なぜこの評価?」と問われて困る
3. 既存の成績システムとの整合性
多くの学校では、最終的に5段階評価や100点満点での成績をつける必要がある。ルーブリックの4段階評価を、どうやって従来の成績に変換するのか?
これが意外と厄介な問題だ。
それでもルーブリック評価をやる価値
こんなに大変なら、「やらない方がいいのでは?」と思うかもしれない。
でも、私はそれでもやる価値があると確信している。
1. 子どもの成長が見える化される
従来の「テスト70点」では分からない、子どもの多面的な成長が可視化される。
実際の効果:
- 普段は目立たない子の良さが発見できる
- 子ども自身が「どこを頑張ればいいか」が明確になる
- 保護者も子どもの成長を具体的に理解できる
2. 教師の指導が変わる
ルーブリックを作る過程で、「何を育てたいのか」が明確になる。これが指導の質を劇的に向上させる。
指導の変化:
- 「とりあえず発表させる」から「説得力のある発表を支援する」へ
- 「調べ学習」から「批判的思考を促す探究」へ
- 漠然とした褒め言葉から具体的なフィードバックへ
3. 発芽カリキュラムの本質が活きる
教科統合型の学習では、従来のテスト評価では測れない能力が重要になる。ルーブリック評価だからこそ、発芽カリキュラムの真価が発揮される。
現実的な導入戦略
理想論だけでは現場は動かない。現実的な導入戦略を考えてみた。
ステップ1:まずは1つの観点から
いきなり完璧なルーブリックを作ろうとしない。「課題設定力」だけでもいいので、まずは1つの観点から始める。
ステップ2:既存の評価と併用
従来の評価を完全に捨てるのではなく、ルーブリック評価と併用する。徐々に比重を移していけばいい。
ステップ3:チーム戦で取り組む
一人で作業するから大変なのだ。同僚と分担して、お互いのルーブリックを検証し合う。
ステップ4:子どもと一緒に作る
これが意外と効果的。「どんな発表が素晴らしいと思う?」と子どもたちに聞いてみる。彼らの答えが、実は最も的確だったりする。
保護者への説明も重要に
ルーブリック評価を導入したときの、保護者から来る質問を想定してみた。
想定質問と答え方:
Q:「普通」って、うちの子はダメってこと?
A:「普通」は「基本的なことができている」という意味です。学年相応の力がついていることを示しています。
Q:なぜ点数じゃないの?
A:お子さんの多面的な成長を見るためです。どの部分が得意で、どこを伸ばせばいいかが分かります。
Q:高校受験に影響しませんか?
A:むしろプラスです。これからの入試では、思考力・判断力・表現力が重視されます。
正直な結論
ルーブリック評価は確かに大変だ。時間もかかるし、悩むことも多い。
でも、子どもたちの「できた!」という顔を見ると、やっぱりやって良かったと思う。
従来の評価では「勉強が苦手」とレッテルを貼られがちだった子が、ルーブリック評価で「協働性が優秀」「独創的な視点を持っている」と評価されて自信を取り戻す。そんな場面に何度も出会った。
完璧を求めず、できることから少しずつ。それがルーブリック評価と上手に付き合うコツかもしれない。
発芽カリキュラムの可能性を最大限に活かすために、評価の在り方も一緒に進化させていきたい。
関連記事 発芽カリキュラム(教科の壁を越える日本型STEAM)の詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。